風にふわりと揺れ、光を優しく通すレース。私たちの暮らしに欠かせないこの美しいテキスタイル、実は日本国内の編みレースの約60%以上が福井県で作られていることをご存じでしょうか?
今回、フェリシモのブランド「el:ment(エル:メント)」のプランナー蜂谷とともに福井県にある老舗メーカー「荒川レース工業」へ取材に行ってきました。
el:mentが表現する福井うまれのレースアイテム
昭和13年創業の「荒川レース工業」さんは、細幅の織物生産からはじまり、インテリアや産業用レースを中心に作られてきた老舗メーカー。
昨今では、レース小物やアパレルなど新たな分野にも挑戦し、レースの可能性を広げている企業です。
そんな荒川レース工業さんとel:mentが今回一緒にお作りしたのが、「レーススカート」と「レーストップス」です。

このアイテムたちに込めた想いを、プランナーの蜂谷に聞いてみました!
ー荒川レース工業さんとコラボレーションすることになった経緯を教えてください。
プランナー 蜂谷)
もともと私自身が福井に友人がいて訪れるうちに好きになり、福井のものづくりを見ていく中で、荒川レース工業さんに出会いました。
レースで玉ねぎネットを作るなどおもしろくて革新的なことをされていて、すごく惹かれたんです。
そんな時にフェリシモの福井部が、福井市との交流会でご縁をいただき、今回のコラボレーションへと繋がりました。

ー「レースアイテム」と聞いて思い浮かべるようなきらびやかなレースではなく、奥ゆかしいレースが特徴のアイテムかと思うのですが、このレースを選ばれた理由はありますか?
プランナー蜂谷)
福井を訪れた際、野菜を入れる『べジネット』のようにレースの技術を意外な形に応用しているのを見ておもしろいと思い、いわゆる服飾用のきらびやかなレースとはひと味違う、カーテンなどのインテリア資材を背景に持つ荒川さんだからこそのレースに魅かれました。
そんな荒川レースさんだからこそのレースの「ハリ感」を味方にしたデザインを心がけたというプランナー。
当初は巻きスカートなどの案もあったそうですが、生地が持つ「立体感」と「心地よいハリ感」を最大限に生かす形状を追求しました。
本来はカーテン用として使われるしっかりした糸遣いを、衣料用にやわらかく調整してもらうことで、カーテンとも違う素材感でありつつ、一般的なレースよりも立体感のあるシルエットが生まれています。


プランナー蜂谷)
トップスは大人が着やすい「ほどよいシアー感」が魅力。透け感のあるお洋服にハードルを感じている方でも取り入れやすいように仕立てました。
トレンドのシアートップスやシャツに重ねて、アクセサリー感覚でプラスするコーデがおすすめです。
袖部分がふんわりとアクセントになりますよ。


プランナー蜂谷)
スカートは生地のハリ感を活かし、ウエストにタックをあしらうことで、空気をはらんだようなふんわりとした広がりを表現。
あえて裏地をスカート丈よりも短くし、すそから光が透けるようにすることで、レース本来の光を通す軽やかさが際立つデザインに仕上げました。
実は日本一!福井が育むレース産業
日本国内の「編みレース」の約60%が福井県で作られていることをご存知でしょうか?
堂々の日本一のシェアを誇ります。
もともと細幅の織物を作っていた産地でしたが、戦後にレースへと転換しました。織物に比べると歴史は浅いものの、確かな「メイド・イン・福井」のものづくりが深く根付いています。
現在、日本編レース工業組合連合会の拠点も福井にあるほど、この地はレース産業の中心地なのです。
今回生産いただいている荒川レース工業さんでは、衣料品よりもインテリアのカーテン向けなどのレースを生産したところからはじまりました。
カーテンレースの技術を持ちつつ、衣料品へと応用するなど、日々レースの新しい可能性と向き合っていらっしゃいます。
そんなレース工場の中はどうなっているのでしょうか? 荒川レース工業の専務取締役・荒川拓磨さんに工場をご案内いただきました。
レースはどうやって作られるの?工場へ潜入!

工場に足を踏み入れると、まず視界に入り込んでくる空間を駆け巡る無数の糸に圧倒されます!
糸がたくさんあるように見えますが、織物に比べると糸の本数は少ないのだそうです。
ただ、織機は一般的な布はくの織機と比べると何倍もの大きさと規模感。
その大きさから、置く場所の広さの確保・置ける台数も限られるのだとか。


最初にレースがどう編まれるのか教えていただきました。
荒川拓磨さん)
うちでは、縦編みの『ラッセルレース』と言われるレースを生産しています。
3つの糸がそれぞれの役割を持ち、交差したりループしたりしながら編まれているんです。
編み模様のデータを機械に読み込ませると自動でその模様に編んでくれます。
〈役割を持った3つの糸〉
〔浮きの糸:模様を形作る糸(編み機の前側に配置)〕

〔沈みの糸:地模様になる糸(編み機の背中側に配置)〕

〔鎖の糸:上記二つの糸をつなげる糸。模様の周りを縁取っているように見える部分(編み機の上に配置)〕

常時4人体制で職人さんが働いています。
8台の編み機を、職人さんたちが1人につき2台体制で見守り、糸が切れたときに交換を行ったり、画像のように糸1本1本を細かい櫛状のパーツに手作業で差し込んで編み機へと渡らせたりしています。


ーレースを作る環境で何か特別な工夫はありますか?
荒川拓磨さん)
工場内は常に『25℃』になるようにしています。レースを編むための金属針は、温度変化によってわずかに伸縮してしまいます。
美しい編み目を保つためには、温度管理が欠かせないんですよ。
荒川レース工業のこだわり
荒川レース工業さんは、デザイナーからの多様な要望に応えるため、生産体制を更新し続けています。


刺しゅうのようなレース、ボリュームを持たせられるレースなど、ここにしかないような編み機があります。
昨年、より小ロットでよりスピーディに複雑なデザインをかなえられる最新のダブルジャカード編み機が導入され、今回のレースアイテムもダブルジャカード機で編まれています。
このグラデーションのようなチェックデザインはダブルジャカードだからできる模様なんです。


荒川拓磨さん)
ジャカードは編み組織を変化させられるため、複雑なデザインを作ることができる編み方です。
普通は「浮き」の糸だけ組織変化が可能なところを、ダブルジャカードは「浮き」にも「沈み」にも組織変化をつけられるために、より複雑なデザインを作ることができます。
半ば特注品のダブルジャカード機を去年導入し、効率もバリエーションも向上させることができました。
繊維産業の縮小とともに、設備投資がなかなか難しい工場も多い中で、荒川レースさんはレースの新たな可能性を広げるべく、新しいことに挑戦する姿勢を大切にされていました。
荒川拓磨さん)
「レースの本質とは、空気を編むこと。風も光も通して楽しむのが本来の姿なんです。」
もともとカーテン事業が主力の荒川レースさん。
光を遮る機能性をどんどん求められるようになっていくことはレースの本質と矛盾があるなかで、その真逆に応える努力をされてきました。
今回のようにアパレル向けの商品は、染加工と風合いをカーテン用のものとは違い、やわらかさ等を意識して、レース本来の姿をより楽しめるものに仕上げてくださいました。
日本のレース産業が抱える課題とこれから

素晴らしい技術を持つ一方で、産地は深刻な課題にも直面しています。職人の高齢化と企業数の減少による人手不足です。
荒川レース工業では、廃業したレース工場の職人を雇用したり、高卒の若手職人を育成したりと、技術の灯を絶やさぬよう後継を育てることにも真摯に向き合っていらっしゃいました。
さらに、地域の「B型就労支援事業所」との連携という新しい挑戦も。
高齢化で担い手が減っていた作業(カフェカーテンのカットなど)を事業所へ依頼したところ、今では「自分たちよりも上手い!」と舌を巻くほどの職人に成長。
事業所の方々からも「もっとこの仕事がしたい」と声があがるなど、あたたかい関係性が築かれています。
メイド・イン・ジャパンの誇りを胸に
昨今では物価高の影響で、原料が高くなる一方、すぐには値上げできない現状もあるんだとか。そんななか、より安く生産できる中国を意識し、日本でしかできないような強みをとがらせていく努力がされていました。
荒川拓磨さん)
「編みは織りよりも汎用性があります。」
文字や言葉を形にすることができる編みレース。
まだまだ新しいものができる可能性がとても印象的でした。

今回のように、産地と販売者が直接つながって商品をつくることはあまりありません。
ロット(生産できる最小数量)や生産の背景をわかってもらえた方が産地側としても、ものづくりがしやすい関係性がつくれました。
ー今回つくったレースアイテムを手に取ってくださった方や、知ってくださった方に伝えたいことはありますか。
荒川拓磨さん)
まずは、福井がレースの産地だということを知ってもらいたいです。メイド・イン・ジャパンで多岐にわたってがんばっている会社があるんだと。そこからテキスタイル自身に興味を持っていただけたらうれしいです。
福井の地で「空気」を編み続ける職人たち。
今回つくったお洋服に実際に触れて感じる独特のハリ感や、すそから透けるやわらかな光、そして風が通り抜ける涼やかな心地よさ。
そこで福井の雪景色や職人さんがつないできたバトンリレーをちょっぴり思い出していただけたら、私たちもとてもうれしいです。
福井で生まれたやさしいレースアイテムが、みなさんの日常にやわらかな風を運んでくれますように。
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