上野動物園には現在、4頭のパンダが暮らしています。お父さんの「リーリー」お母さんの「シンシン」、2021年に誕生した双子の「シャオシャオ」と「レイレイ」。(2024年8月の取材当時。現在はリーリーとシンシンは中国に返還されています)
上野動物園は日本で最初に、そして最も長くパンダを飼育している動物園であり、日本で初めてパンダの繁殖にも成功しています。
「ジャイアントパンダを守ることで森全体の生き物を守ることにも繋がる」とおっしゃる上野動物園副園長の冨田恭正さんに、パンダが中国からきたきっかけやジャイアントパンダ保護サポート基金のことをお伺いしました。
冨田 恭正(とみた やすまさ)
上野動物園副園長。1988年上野動物園に配属される。以来、そのほとんどを都立動物園・水族園の動物たちに支えられながら過ごし、2019年から現職。
上野動物園のジャイアントパンダについて
ーー上野動物園の4頭のパンダはどんな様子で暮らしていますか?
リーリー、シンシン、シャオシャオ、レイレイ。みんな家族ですが、人間のような家族のかたちではなくみんなバラバラで 基本1人暮らしです。パンダって単独性なので、家族だけどバラバラです。
シャオシャオとレイレイが双子の子どもたちなんですけど、3月までは一緒にいました。 大きくなってきて、仲が良すぎてしまい、取っ組み合いが過激過ぎて怪我しそうになって、3歳になるちょっと前にそろそろ危ないので分けようということになりました。
ーー中国から上野動物園にジャイアントパンダがきたきっかけを教えてください
パンダの保護繁殖のための共同研究で、パンダのペアがたくさん 必要になります。上野動物園も保護繁殖の研究に賛同して、繁殖を担うということが1番の目的です。
併せてパンダの普及啓発をして、絶滅危惧種のジャイアントパンダの保護に多くの方々に関心を持っていただくことが目的です。パンダだけではなく、野生動物全般に関心を持っていただくための取り組みにも参加しています。
今は子どものシャオシャオ・レイレイも、先日中国に帰ったシャンシャンも次の世代を担う パンダになり得るわけで、中国でお父さん、お母さんになるかもしれない。
中国ではパンダの野生復帰の取り組みが進められています。中国に帰ったシャンシャンの子供、孫、ひ孫、どの世代になるかはわかりませんが、野生復帰するための貴重な遺伝子 を担っているかもしれません。
最終的にはジャイアントパンダがいつまでも地球上にいられるように、というところまで繋げていくところが目標です。
どうしてジャイアントパンダが絶滅の危機に?
昔は毛皮を取るために乱獲があったようですが、今は生息地の開発の問題が一番大きいです。
パンダは竹が主食ですが、竹林がいくつも繁っていればそこを行き来しながら分布を広げていくことができます。
食肉類の熊の仲間であるパンダが竹を食べるというのは、実はすごい変わった性質です。
竹は大した栄養がないのでいっぱい食べないといけないのですが、そこで何が起きるかというと、1頭につきとてつもなく広い面積が必要になります。
例えば 人間側の理由の開発で、大きな竹林が分断されてしまったら、面積が狭くなり食べる竹の量が減ってしまうので、それだけで生息できなくなる。人間側の開発の影響を受けやすい動物ということは 間違いないと思います。
ジャイアントパンダが暮らせる環境を回復することで、他の動物たちも数を増やせる可能性もあります。
ジャイアントパンダを守ることで森全体の生き物を守るということにも繋がるのかなと思っています。
ーージャイアントパンダの 繁殖に力を入れるために取り組んでいることはありますか
オスとメスのパンダそれぞれの健康状態をしっかりと観察して、ペアリングの時期をきちんと見極める。 観察用のモニターで、ちょっとした行動の変化から発情期を見逃さないようにしています。新たな知見を得るためにも、1年中観察記録を取ることをしていますし、中国へ研修にも行っています。
格子にパンダに捕まってもらって、手を出してもらって血を取ったり、口を開けてもらって健康状態を見たり「おなか出して」と言うと寝転がってくれて、そういうこともコミュニケーションの中でできるようになっています。細かい健康状態の観察とモニターによる行動の観察を全部組み合わせて把握しています。
おおよその発情時期が実は決まっていて、シンシンで言うと2月から3月ぐらいが発情期です。
なので12月、1月ぐらいからは繁殖の視点で注意深く観察することにしています。
ジャイアントパンダ保護サポート基金について
お父さんのリーリー、お母さんのシンシンが来る直前に始まった基金です。個人のみなさま、企業さまから企業協賛をいただいて集まった基金と、動物園協会で商品を販売しており、その中の いくつかの商品についてはその売り上げの数パーセントを基金に組み入れるという形で、成り立っています。
上野動物園にいる4頭のパンダの飼育環境の向上や、 普及啓発、中国にいるパンダの保護の支援に使わせていただいています。
例えば、特に若いパンダは縦横に移動できることがやっぱりとても大事なので、大きな木のやぐらを設置したり、パンダが喜ぶことや壊れた物の補修を実行しています。
パンダの体重計を買って体重管理をしたり、全体を間違いなく観察ができるモニターカメラを購入するなど上野動物園のパンダのために資金を使わせていただいています。
また、コロナ前には講演会を実施していて、最近では動物園の取り組みについてお伝えするために「つなぐ ジャイアントパンダ飼育の50年【抄本】」本を出版して、啓蒙活動に力をいれています。
ジャイアントパンダに関心をもつことはジャイアントパンダをまもることの第一歩です。
多くの皆様に関心をもっていただけるように、これからもパンダの健康を第一に考え、取り組んでまいりますので、ぜひ会いにいらしてください。
🕺 応援したい気持ちをコメント