2011年から毎日上野動物園に通い「毎日パンダ」として、毎日パンダを撮影する高氏貴博(たかうじ たかひろ)さん。どうして毎日パンダを撮影するのか。編集部は3605日目に同行して「毎日パンダ」の一日に密着。パンダとの出会いやパンダをきっかけに広がった価値観などお伺いしました。
高氏 貴博(たかうじ たかひろ)
うっかり年間パスポートを買ってしまったばかりに、毎日上野動物園でパンダを見ることになった人によるパンダブログ「毎日パンダ」を運営。写真を撮ってひたすらアップするというシンプルなサイトが人気で、上野動物園のパンダファンで彼を知らない人はいない。
上野動物園の“ジャイアントパンダ保護サポート基金”付きのかわいいグッズが、GO!PEACE!からたくさん販売されているのをご存じですか?
パンダソックス、パンダ型布団収納ケース、パンダポーチ。ころんとしたパンダのフォルムにとても癒され、ジャイアントパンダについてもっと知りたい!と思っていたところ「毎日パンダ」というウェブサイトに出会いました。
ん?
3575日目?3575日を一年で割ると9.7945….?
10年近く毎日パンダを撮影している?どんな人だ?何で毎日?パンダだけを?雨の日も?風の日も?体調悪い日は?
毎日パンダに会いに行く気持ちって、どんな気持ちなんだろう。パンダには、どうしてもそうさせてしまう魅力があるに違いない。「これは会って話をきくしかない!」と思いたち、高氏さんに会いに行くことにしました。
(実は高氏さんと連絡を取るまでに、パンダ素人の私にとってとてつもない壁があったことは、記事の最後の「おまけ」でお知らせします)
・午前9時、上野動物園の弁天門で待ち合わせ
パンダ舎から一番近いという、弁天門で高氏さんと待ち合わせ。開園前の動物園に並ぶことは初めての体験である。合流後すぐに列にならんだが、すでに15人が前にならんでいた。
並んでいる人を観察すると、みんな何かしらパンダグッズを身に着けている。
リュックからパンダをひょっこりはんさせている女性、ピアスがパンダなご婦人、座っているシートがパンダ柄なご婦人と、女性の割合が多い。女性8:男性2くらいの印象。
高氏さんは全身ブラックスタイルでパンダグッズを身に着けてはおらず「大切なパンダが汚れてしまうのが嫌なので」という理由で、おうちにいっぱいパンダグッズがあるらしい。
開園まで30分ほど時間があるので、上野動物園のパンダとの出会いを聞いてみた。
「2011年の8月に仕事の空き時間に上野公園を散歩していたら、 目の前に上野動物園があって。ちょうどそのころ、お父さんパンダのリーリー、お母さんパンダシンシンが日本に来たばかりで、パンダブームだったんです。ちょっと有名なパンダを見てみようかなと、軽い気持ちでふらっと入園したら、そこでどっぷりはまってしまいまして。
その日に年間パスポート買いました。次の日も、またその次の日も、年パスがあるから会社に行く前に寄っちゃう。という日が続いて、 1ヶ月連続で通ってみようと決めたら、あっという間に達成して。
1ヶ月通うころになると、パンダの顔の違いがわかるようになるんです。 顔の違いがわかると、性格や行動が手に取るようにわかってきて、ますます面白くなってしまいました。
次は半年通ってみよう、1年通ってみようと、目標を延ばしていくうちに動物園の職員さんから「一体いつまで、やるの?」と聞かれて 、いつまでも続けますと宣言してしまい、今に至っています。」
・午前9時30分 開門
開門のアナウンスが流れ、ようやく入れる!と思ったのも束の間、あることに気が付く。「私、年パス持っていない」。そう、行列に並ぶパンダファンさんたちは当然年パスを持っている。
これは豪速でチケットを買わないとむちゃくちゃ追い抜かれてしまう!高氏さん早くから並んだのにすみません!といいながらチケットを買うが、想像以上に出遅れてしまった。
一番手前のリュックを背負った男性が「毎日パンダ」の高氏さん。
「まずはシャオシャオに並びましょう」と高氏さん。「え?また並ぶの?」と私。動物園が開園しても、パンダ舎の準備が整って扉が開くまで並ぶ必要がある。
高氏さんに、パンダの好きなところを聞いてみた。
「パンダに出会ったころは特に自分の仕事が忙しく、せかせかしていた時期でした。ただ、パンダを見ている時間はパンダの独特なゆるい時間で、だら~ん、ぷら~んとしているマイペースなパンダの時間に自分も合わせることができて、とても癒やされていい時間だなと思いました。
仕事の時間は仕事をしっかりして、パンダを見ている時間はゆるい気持ちでいられる、オンとオフの時間がはっきりできるところにも魅力があります。」
と、そのときパンダ舎のシャッターが開いた!と、同時に
パンダの姿が見えるなら、ひとときもチャンスを逃さないといった姿勢が伝わってくる。ちゃんと撮影画面を見られていないだろうが、きっと見なくても長年の経験と勘で撮影できるのだろう。
このとき手を伸ばして撮影された写真がこちら
さて、いよいよ次の回でパンダ舎に入れる!と思っていると
ここでひとつ、入場制限のあるパンダ舎についての豆知識をどうぞ
今、私たちが立っているのは①の扉の前。扉を入って正面にパンダがいて、観覧できる場所が②と③に分けられている。扉を入ってまず②で観覧ができるのだが、
制限時間は1分。
ピーーーーーーーーーーーッと 勇ましい笛の合図とともに、中央の仕切りがスタッフによって開けられ、③へ移動。開園前から1時間は並んでいるが、観覧時間は合計2分。この貴重な時間をどう過ごすか、緊張感を感じていると
扉が開いた。
観覧する人たちの、マナーのよさに驚いた。我よ我よとパンダに寄っていくことなどなく、きちんと並んでいた順番で押し合うことなく思い思いに撮影されている。
ピーーーーーーーーーーーッ
③へ移動。
観覧時間残り数秒というところで、突然高氏さんの一人舞台になる。パンダの座る位置、向きなどである程度早めに人がはけることを察していたかのようなポジション取りを感じた。
カメラをおろしても、最後の笛がなるまでじっと見つめている
背中にすごく哀愁を感じる。
二巡目なので、最初気が付かなかったものが目に入ってきた。
近年の猛暑の影響により列に並んでる最中に熱中症になる人もいるようで、動物園側がいろいろと対策をしてくれているのだそう。行列ができるエリアには日よけのテントが設置され、蒸気をファン送風する機械もあった。
実は、高氏さんは長年にわたって“ジャイアントパンダ保護サポート基金”に寄付されており
「自分の活動の一部がパンダのために役立つことはすごくうれしいので、パンダの取材や原稿をいただく謝礼の一部や全額を寄付するようにしています。」
なんだか、開いてみないとどこで何をしているかがわからない、ガチャガチャ的な感覚がおもしろい。
高氏さんがおっしゃられる、
「特に毎日こういう写真を撮ろうとか決めていなくて、ありのままの姿を好きな時間に見に行き、好きなパンダがどうしているか、そのときに撮れる写真を撮っています。
すごい格好をつけて「これを絶対に撮るんだ」とか、気合いを入れているわけではなく、日々淡々と毎日続けるということを大切にして、あまり気合いを入れすぎないようにしています。」
え!シャオシャオと目が合ってる気がするのは私だけ?
私には到底パンダの見分けなどできる訳がなく、高氏さんに見分け方を聞いてみた。
「見比べると全然顔が違うんですよね。丸っこい顔のパンダもいれば、頭が尖っているパンダもいるし、あとは耳の大きさや位置が違ったりします。
わかりやすいのは、たれ目に見える黒い目の周りの黒い部分です。形や大きさ、目の離れている具合など、ほんとに個体によって全然違います。
シンシンは顔がまん丸でパンダのお手本のような顔のかたちをしていて、とてもかわいらしいパンダです。(2024年8月の取材当時。現在はシンシンとリーリーは中国に返還されています)
お父さんのリーリーは頭のてっぺんが尖がっていて、わりと特徴があります。あとはイケメンと言われていて、すごく格好つけるようなしぐさをしたり、明確にキャラクター性があってキャラが立っています。
双子の男の子、シャオシャオはお父さん譲りのイケメンです。顔が整っていて、とても顔立ちがはっきりしており、「僕、かわいいでしょ?」という感じです。
女の子のレイレイはすごく穏やかで、おっとりしていて優しい感じのパンダです。優しさが表情から溢れ出ていて、本当に穏やかで、すごくすてきな女の子だと思います。」
「正面を向いてかわいく餌を食べているところはもちろんかわいいのですが、後ろ姿が大好きです。特に頭のまるっとしたところや、頭とお尻にかけたまるいラインが大好きなので、後ろを向いていても問題ありません。
むしろ寝ているところがとても好きです。ペタっとだらっとしたところが脱力感と、ふたっとしているところが個人的には一番大好きなポイントです。」
なので、後ろ姿でも全く問題ない様子。
毛並みの感じまで、伝わってくる。
撮影した写真はどんな風に更新しているのか、聞いてみた。
「毎日5千枚から1万枚ぐらい撮って、家に帰って写真を全部見返します。丁寧に見返すと、100枚に1枚くらい「これは!」と光る写真があって。そこからセレクトして、ブログに何十枚かアップしています。
一日に1万枚も撮ってしまうので、セレクトには1時間以上かかります。でもその時間もとても至福の時間で「あ、こんなことあったな。実はこんなシーンだったのか」と写真で発見することも多いです。
実際に見ていても、ただうろうろしているだけで「何してるんだろうな?」ということも多くて、後からいろいろ発見があるので、そういう意味でも2度おいしい時間です。」
目がほんとうに、きれい。
リーリーのパンダ舎は入場制限がなく、並ばずにスムーズに入れるスタイル。シャオシャオ、レイレイそれぞれ2巡した後にはもう11時過ぎになっていて
「夏は熱中症のこともあって、午前中には切り上げるようにしているんです」と、高氏さん。
手持ちのファンをいつも2つ常備していて、熱中症対策に無防備な私に1つ貸してくれた。高氏さんのブログからも、熱中症の心配コメントが見て取れるほど、パンダファンにとっても夏の暑さは心配の種のよう。
最後にリーリーを撮影して3605日目の「毎日パンダ」密着取材を終えた。
上野動物園を後にして、我々が向かったのは松坂屋上野店にある「パンダ茶房 by 銀座清月堂」。ここは高氏さんの写真が飾られた茶房のよう。
ずっと屋外で過ごしていたので、松坂屋さんの冷房とかき氷に癒される我々。一息ついて、パンダとの毎日が、どんな日々か教えてもらった。
「こんなに毎日会っていると、まるでもう家族同然の存在になっています。家族に毎日会いに行って、成長記録を写真に収めるような気持ちでいます。」
この活動を始めてから一日も欠かさず通っていましたが、初めてパンダに会いに行けなかった日があるそう。「娘が誕生する日だけ、上野のパンダに会えませんでした」。ちょっと安心した。
かき氷に舌つづみをうっていると「キャア」という小さな黄色い声が聞こえた。高氏さんのファンの方だ。上野動物園でも、10歩あるけば「こんにちは」また10歩あるけば「高氏さん~」と声をかけられいて、パンダファンにとっての高氏さんの人気ぶりを感じた。
最後に「毎日パンダ」をきっかけに広がった価値観について聞いてみた。
「人間の暮らし以外にも、いろんな動物たちが暮らす世界が身近に広がっているんだなと感じています。基本的に動物園に行くとパンダしか見ないのですが、やっぱりいろんな動物の存在を感じることができるので、人間だけじゃない多様性のある世界が広がっていて、いろんな生き物を尊重していきたいと思っています。」
おまけ
冒頭でお伝えしたパンダ素人にとって大きな壁ですが、「毎日パンダ」のお問い合わせ画面がこんな画像選択システムだったのです。
パンダの見分け方をネットで検索して、会社のお昼休みの時間に無数のパターンで入力すること3日ほど。「全然無理だ」諦めモードの中最後の頼み綱で、高氏さんの最新書籍を出版している青春出版さんに問い合わせてみたところ、快くご担当者さんから連絡をいただけ、高氏さんとお会いすることができたのでした。
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