フェリシモ60周年の節目に出会ったのは、植物の生命の色を糸に紡ぐ染織ブランド「アトリエシムラ」の詩的な世界でした。
志村ふくみさんの色彩世界をより多くの方に伝えるためにアトリエシムラがスタートさせた「志村ふくみテキスタイルコレクション」は貴重な志村ふくみさんが織りためた裂をデータ化し、テキスタイルとしていかす新しい試みです。その一歩として、アトリエシムラ監修のもとel:mentがデザインしたテキスタイルでワンピースを仕立てました。
鏡に映るたび自然の優しさに包まれるような、あなたの毎日に「心の豊かさ」を届けてくれるお洋服の物語です。

アトリエシムラ
アトリエシムラ代表・志村昌司さん。
植物の声を聴き、生命の色を糸に紡ぐ染織家で紬織の人間国宝・志村ふくみさんのお孫さんです。
「アトリエシムラ」はその精神性を未来に繋いでいくための染織ブランドとして、効率性とは真逆の「自然に寄り添ってモノづくりをする」という現代ではむずかしい手仕事の道を歩んでいます。今回のお取り組みを通し、対話を重ねてきました。
el:ment×アトリエシムラの特別な一着


「アトリエシムラ」は、染織家・志村ふくみさんの芸術精神を継承し、植物の「生命の色」をいただき、織りによる「織色」を大切にされています。
今回は、アトリエシムラが貴重な裂をデータ化する新しい試み「志村ふくみテキスタイルコレクション」をご一緒しました。
植物の色彩世界をより多くの人に伝えるためスタートさせた新たな挑戦です。
今回は、志村さんが織りためてきた膨大な「裂(きれ)」の中から二つの特別なデザインを選び、アトリエシムラ監修のもとel:mentがデザインしたテキスタイルをワンピースに仕立てました。
el:mentのプランナー蜂谷にその思いを聞きました。

蜂谷)
選んだデザインの一つは、第一印象で強く心に響いた『色と光のこころみ』。
たくさんの色を一つの世界にまとめ上げる志村さんならではのメソッドが凝縮されていると感じました。
もう一つは、シックで和の気品が漂う『紫白段(むらさきしろのだん)』。
紫はお洋服によく使われる色ではありませんが、古来より高貴な色として愛されてきた色であり、その背筋が伸びるような上品さに惹かれたんです。
本来、草木染めした糸で手織りされる着物を、いかにして日常着として届けるか。日常着としてコラボアイテムを作るために、蜂谷がこだわったのが「トリアセテート」という素材でした。


蜂谷)
アトリエシムラは自然と共生している方々なので、このコラボレーションでは服を短いサイクルで消費するというよりも、長く一着を大切に着てほしいと思いました。そこで、ブラックフォーマルにも使われる上質さと、自宅の洗濯機で洗える気楽さを兼ね備えたトリアセテートを選びました。私自身、服作りで好んで使っている大好きな素材です。
ーどうしてこのワンピースの形になったんですか?
蜂谷)
アトリエシムラは着物の世界なので、着物をどこか反映させたシルエットにしたいなと思いました。また、立体感は欲しいけど、同時に柄を楽しんでいただきたいので、あまり柄を分断しないよう、着物のシルエットを反映させた最低限のデザインで、この美しい世界を表現しました。
伝統ある「草木染めの思想」に触れる入り口として、毎日のお手入れもしやすく、長く愛せる。
そんなel:mentらしいこだわりが詰まったアイテムが誕生しました。

アトリエシムラの本物の草木染めに触れていただけるように、桐生刺繍イヤカフも作りました。こちらはアトリエシムラが染めたシルク糸で桜、ヒヤシンス、ミモザを桐生刺繍にしたイヤカフです。植物の生命の色を感じていただけるアイテムになっています。

アトリエシムラに出会う。

企画担当蜂谷にとって、アトリエシムラ(志村ふくみさん)は、ずっと仰ぎ見てきた「荘厳で嘘のない世界」でした。かつて服飾学校に通おうとしていた時期に出会い、その圧倒的な精神性に「生半可な気持ちでは触れてはいけない」と門をたたくのを躊躇うほどあこがれ続けてきた存在。それから数年を経て、今回コラボレーションが決まり、足を踏み入れたアトリエシムラの工房では、思っていた以上に大変な手仕事の現場がありました。

右:鍋から染液を汲みいれたボウルを火にかけ、布を浸しかき混ぜながら色をしみこませる様子。
蜂谷)
高尚で厳かなイメージが浮かぶアトリエシムラですが、草木染めの体験では、エプロンに長靴、ゴム手袋を着用し、沸騰する鍋をかきまぜる熱さや、染液を含んだ重い布をひろげる力強さが必要とされるものでした。植物の煮汁は、そのまま料理に使ったり、漢方のように煎じて飲むようなものもあったりするものもありますよね。草木染めの煮汁も漢方やお茶のようなおいしい香りがしていました。

蜂谷)
普段の企画の仕事では、『狙った色』を数値で指定しますが、草木染の世界ではそれは人間の押し付けです。果実や花が咲く前にエネルギーを蓄えた植物を使って、植物が今たくわえている色を謙虚にいただく。それは自然からの『おすそわけ』を待つような時間でした。
志村ふくみさんの思想

草木染めは草木の声を聞き、「色を奪う」のではなく、草木が持っている「色をそのままいただく」。どんな色が出ようとそれを受け止める思想が大事です。
さらに、志村さんは草木染めを通じて、人生にどのような気づきを得るかと問いかけています。志村さんのもとで学ぶ生徒たちに対して、卒業した後の選択肢は草木染めに限らず、草木染めを通じて得られた気づきや感覚が人生の肥やしになることを大切に考えています。
蜂谷)
草木染めや機織りといった高尚な手仕事から何を受け取って、どう生きていくか。哲学的なものが好きなので、ただ”いいもの”に終わらず、思想につながることに胸躍りました。
それまで志村さんは、草木から色をいただく中で、言葉では言い表せない色の揺らぎや、自然界の色の奥深さに、どこかもやもやとした正体のつかめない感覚を抱いていたといいます。
その霧を晴らしたのが、ゲーテの色彩論である「色は光と闇の境界に生まれる」という思想でした。
植物の煮汁から糸を引き上げ、空気に触れた瞬間に鮮やかな色が宿る。そんな志村さんが日々工房で向き合ってきた瞬間を言語化してくれるものでした。
この出会いによって、志村さんの色彩論は確固たるものになっていきました。
何をもって草木染めの再現とするのか。
アトリエシムラにとっても初となるプリントによるテキスタイルコレクションへの挑戦。
それは「再現」の定義を根本から問い直す手探りの作業でした。
普通、再現というと色やサイズに決められた数値がありそれに従うけれど、アトリエシムラの監修は、”作品の世界観が表現されているか”や”作品が生まれた背景をくみ取れているか”で再現性を評価しました。

例えば「色と光のこころみ」は、光を表現したテキスタイルであるため、その光の印象を再現することが重視されました。
もとの柄をただコピーするのではなく、手織りの裂が持つ不均一な美しさや、光が当たった瞬間の印象をどこまで写し取れるか。「光が表現されているか」を基準に、奈良のプリント職人と共に試行錯誤を繰り返しました。


蜂谷)
普段は色も想定した色と合っているかを見比べる作業です。
しかし、今回は元となった裂が「どのような意図で生まれたかが反映されているのか」が校正の基準で、はじめての経験でした。
例えば、「色と光のこころみ」は光を表現したテキスタイルだから、光の印象が再現されているのか。それが一番の基準でした。
アトリエシムラさんの持つ光の印象というのも、やり取りをする中で探っていくような形でした。
トリアセテートの生地自体が持つグレー味をどう抜くか、彩度を上げすぎると色が強く光が消えてしまう……。とらえようのない印象を大事にされているんだとだんだんとわかるようになりました。最初に背景を聞いておくことが本当に大事なことだったんです。メーカーさんと対面で話し合い、4度の試作を重ねてプリントが出来上がりました。
アトリエシムラの思想を知っていただくきっかけになるメディアのような立ち位置にこのテキスタイルコレクションがなれればという思いではじまりました。
蜂谷)
いきなりむずかしい思想から入るのではなく、まずは「こんな世界があるんだ」「素敵だな」というところから入ってもらって、「これはどういうテキスタイルなんだろう」とだんだん思想に近づいて興味を持っていただくきっかけになったらいいなと思っています。
五感でふれあう。
志村さんの想いを受け継ぐ芸術学校「アルスシムラ」の1期生として学んだ後、アトリエシムラで働いていらっしゃる吉水まどかさん。
今回のコラボレーションでも担当になっていただいた吉水さんに、アルスシムラでの学びについても伺いました。

左:アトリエシムラ代表・志村昌司さん、右:アトリエシムラ染織家・吉水さん
吉水さん)
ここで学んだ世界は、これまでの社会で慣れ親しんでいた、数字などの「目で計れるもの」を頼りにする世界とは対であり、自分の感覚を頼りにし続ける訓練がありました。
正解があるかどうかではなく、自分の中で基準を見つけ出す。染織の世界に身を置くことで「自分ができることは少ない」ということを何度も突き付けられ、常に草木の声を聞く姿勢こそが、精神性の成長につながっていくのだと感じています。

植物が長い時間をかけて蓄えてきた生命のエネルギーをいただくのが草木染めであり、植物の最も美しい瞬間を見極める判断力とその時々の状況に応じて変化を感じ取る人間の五感が不可欠です。
染めという行為を通じて、自然と深くふれあうことを大切にされています。
el:ment×アトリエシムラを通じて

ーこのコラボレーションを通じて、守りたいものや伝えたいことはありますか?
蜂谷)
この一年、アトリエシムラの皆さんと対話を重ねる中で、草木染めとは単なる手法ではなくそれを通じて『どう生きるか』という哲学なのだと教わりました。その深遠な思想をすべて理解するのは難しいかもしれません。でも、この服がきっかけとなり、ほんの少しでも自分の人生と重なる部分を見つけたり、何かを感じたりするトリガーになれたら。そこから、もっと知りたいという好奇心が芽生えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。
ー蜂谷さん自身はアトリエシムラの草木染めの精神を通じてなにか考えたことはありますか?
蜂谷)
ほしい色を追い求めるのではなく、植物本来の色をそのまま受け止める。その姿勢は、人との向き合い方にも通じると気づかされました。
相手に何かを期待するのではなく、その人の思想をただ受け止めること。 だからこそ、今回のお洋服も『こう感じてほしい』という正解は作りたくありません。手に取った方それぞれが、自由な感性で、自分だけの気づきを見つけていただけたら幸せです。
ー今後アトリエシムラさんとやってみたいことはありますか?
蜂谷)
またコラボレーションさせていただきたいと思っています!何を作りましょうね(笑)
今回選んだトリアセテート生地がとてもしっくりきているんですが、ほかの生地もトライしてみたいという思いもあります。
アトリエシムラの着物の世界にはシルクが近いのかなとも思うので、シルク系の生地でもやってみたいですし。今回はワンピースで少しドレッシーなものを作りましたが、もっと日常に入り込むお洋服もやってみたいですね。
ー2月3日にはアトリエシムラとel:mentのイベントが東京で開催されるそうですね!イベントではどんなことをするんですか?

蜂谷)
ワンピースとイヤカフを展示したり、今回テキスタイルの元となった2つの裂が織られた際にも使った草木染めの色糸を展示したりします。お客様を招待させていただいて、ギフトをお渡しする予定です。

今回アトリエシムラの思想にふれ、今自分が活動している中で、効率や数字でコントロールされていないものはあるのだろうか、自分の感覚だけを頼りに行っていることはあるのだろうかと私自身も自問自答しました。
効率や数字でコントロールできない、植物の「生命の色」を纏うということ。
「こうあるべき」というエゴを手放し、自分の感覚を信じて、ありのままを受け止める。
伝統的な草木染めの思想、アトリエシムラの思想をくみ取ったこの一着があなたの毎日に新しい光を灯し、生き方をみつめる小さなきっかけになりますように。
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