ボルネオではパーム油の栽培によって動物たちが森を追われ住処を失っていますが、みなさんはパーム油がなにか正しく知っていますか? サラダ油・ごま油・米油は身近にありますが、パーム油はなかなか聞き慣れません。そこで、「ボルネオへの恩返しプロジェクト」を中心となって立ち上げた旭山動物園の坂東元(ばんどうげん)統括園長に、パーム油についてやお買い物のときの選択肢についての考えをお伺いしました。
坂東 元(ばんどう げん)
旭山動物園統括園長。1961年北海道生まれ。酪農学園大学卒。獣医となり1986年より旭山動物園に勤務。飼育展示係として数々の施設デザインを担当。動物がもつ生態や能力を引き出すよう工夫した行動展示は旭山動物園を一躍有名にした。2024年より現職。
パーム油はみんなの見えない必需品
油は人間の生活で欠かせないものですよね。例えば料理で炒めるときにしろ、いろんなものに油が使われています。
昔は石油製品から洗剤など油を作っていたけれど、環境への配慮や土壌汚染、いろんな問題があるのでだんだん植物油脂の方が良いのでは、という流れになりました。
昔の植物油脂は大豆と菜種が中心でしたが、どんどん人口が増えて生産するのにかなり広い面積が必要になりました。年に数回収穫してもなかなか需要を満たせなくなり、ここ30年ほどでパーム油を採るためのアブラヤシの畑が熱帯に急増しました。
大量に取れるため、コストが非常に安い。そのため、ものすごい勢いで需要が増えています。
パーム油は、見えない必需品と言われていて「パーム油」と表記されているものは、ほぼ見ることがありません。パーム油を単体で使っていないので、日本では植物油脂と表記されています。
例えばお煎餅だったら、米油で香ばしい感じになりますが、米油だけで作ると、期間を置くと少し油臭くなってしまいます。そこにパーム油をミックスすると、すごく安定するんですね。油をミックスしているから、表には出てこないのです。
流通しているもので植物油脂と書いてあると、ほぼパーム油がミックスされていると考えていいぐらいです。食べ物で言うときりがないですが、スナック菓子、カップ麺、チョコレート、アイスクリームなどにもパーム油が使われています。
せっけんや歯磨き粉、化粧品やシャンプーもそうです。使われていないものを探す方が難しいくらいで、主役ではないですが流通しているものには、驚くほど多くの製品に使われています。
植物原料なので、やっぱり肌にも優しくていいんですよね。ペンキにも使われ始めていて、揮発したときに植物原料の油を使ったペンキだと環境にもいいし、体に影響が少なくて、本当にすごい広い用途があるんです
ボルネオは本当に急速に、利用できる限りの場所がほぼパーム油の生産地に置き換わってしまったんですが、地球規模で言うと人口はまだまだ増えるので、需要は上がっていくだろうと言われています。
そうなるとどうしても面積を広げて、作りたくなる。やっぱりその中で本来熱帯であったところが、油を採るためだけの単一のプランテーションに変わっていくわけだから、当然そこにいた生き物たちは住みかを失っていくことになります。
ものの選び方で変わる未来
例えば欧米の方々だと、油に限らず認証を取ったものを使うという意識があります。一定の農薬を使っていない野菜や、魚でも認証マークがついているものがすごく多いです。
キーワードはやっぱり持続可能性で、このまま乱獲していたら魚がいなくなってしまいます。どうしても漁網にかかってしまう例で言えば、イルカが捕獲されてしまいます。
だから「イルカを捕獲してしまわないような漁業のやり方で作っているツナ缶です」というちゃんとしたマークがあります。
当然手間がかかっているため、値段は高いですが、それでも高い方を選ぶという人たちが一定数いらっしゃいます。そのことが持続可能な未来につながっているのだと考えますが、残念ながら日本には認証されたものはほとんどありません。
パーム油に関しても認証制度があり、例えば作り手側の環境配慮で排水を川に流さない取り決めだったり、人権問題への配慮があったりします。日本にも認証されたパーム油が入ってきていて、それを使用する企業も少しずつ出てきているのが今の現状です。
選ぶ側がどんな価値を見つけて選択するか、やっぱり消費者の意識が一番大切です。自分たちだけに安全安心で優しくていいのか。油が原因で、オランウータンの未来が本当にもう閉じようとしている現実がある中で、「使わない」という選択肢ではなく、使うからこそ「何かを返す」ことができればと思います。
例えば、オランウータンたちの未来につながることにお返しができる、そんなものがあれば、そっちを選んでみようかなと思うかもしれない。
恩恵を受けている先進国としての努め
自分たちだけのしあわせを考えて、他の生き物たちをどんどん地球上から消してしまうというのは、本当のしあわせではないし、持続可能性はそこにないと思います。
ものの選び方で未来が変えられるかもしれない。日常の中の小さなことでも、ものができるまでのヒストリーや価値を見つけたりすると、同じものでも違って見えてくるのかなという気がしますよね。
パーム油の話だけではなく、「知らずに使うこと」と「知って使うこと」は全然違う未来につながると思います。勉強しなさいということではないですが、知らずに使うことが罪になる時代なんだろうなと思います。
パーム油はお金持ちが使うものとかそういうものではなく、本当に人の生活のベースになっていて、変な言い方ですが野生動物から見ると人はみんな加害者になっているわけです。
その恩恵を受けて今の暮らしが成立しているわけなので、何かその動物たちに返せる「循環のようなこと」。そういうことができないかなというのが、今ボルネオに住んでいない僕らができる「ボルネオへの恩返しプロジェクト」なんだろうと思っています。
日本は何もものがない国で、物がないのにこんな豊かな暮らしができているということを、もう1回真剣に考えないといけないと思います。
どこかから勝手に出てきているわけじゃないということ。そこに気づいていくのがやっぱり先進国としての務めで、先を走っているから見えてきているものがあるはずなんです。
応援コメント ✍🏻️
コメント数 3 件