フェリシモでは京都紋付が100年培った服の染め替え技術“黒染め”を使って、好きだったけれど汚れてしまってもう着られない服を、捨てずに黒に染め直して、もう一度着るサービス「kuronicle[クロニクル]」を展開しています。新しい服を販売するにとどまらない、サステナブルな取り組みについて株式会社京都紋付の荒川徹(あらかわ とおる)さんにお話を伺いました。
荒川 徹(あらかわ とおる)
大正4年創業、株式会社京都紋付の四代目。100年を超える紋付を黒く染める伝統技術を守りながら、国内外のさまざまなアパレルブランドの黒染め加工を受注。その技術を活用して、一般のお客さま向けに服の染め替え事業をスタートさせた。
100年培った技術から生まれた、服の「染め替え」
ーー京都紋付さんが長年手がけてこられた紋付の黒染めの、移り変わりについて教えてください。
大正4年の創業以来、100年以上にわたって紋付の黒染めをしてきました。1970年代の最盛期には業界で年間300万反※を染めていましたが、近年は年間5000反にも届きません。およそ120社あった黒染めの会社も、今ではうちを含めて3社のみです。それだけ市場が縮小したということです。
※1反は着物一着を仕立てるのに必要な長さ
ーーそんなになんですね・・・・・・。それだけ紋付を着る機会が減ったということでしょうか。
40年ほど前までは嫁入り道具として紋付を持たせる習慣がありましたが、今はもう聞かないですよね。喪服はほぼ洋服に置き換わっていますし、ほとんどの方が紋付を持っておられないというのが現状じゃないでしょうか。
今では相撲取りや歌舞伎役者、宝塚歌劇団の方が卒業式で着るなど、芸能で着られるくらいです。
ーー確かに、私の実家でも見たことないです・・・・・・。
そうでしょう。今の生活スタイルに合わないんですよね。私も下駄は履きませんし(笑)。だけど、紋付を着るとやっぱり格好いいですし、自然に背筋がぴんと伸びます。
そういうことは知ってもらいたい。需要は減っていますが、紋付は日本の正装ですから技術は守っていかなければと思っています。
「染め替え」で新しい服と出会える!?
ーー黒染めの技術を活かして染め替え事業を始められた、きっかけについて教えてください。
祖父の代から、洋服を黒く染めてほしいと持ってこられるお客さまがいて時々染めていたんです。少しずつ市場から紋付がなくなってきて「このままでは黒染めの技術が消えてしまう」という危機感を持っていました。
2013年秋、そろそろ染め替え事業を始めようと思っていた矢先、環境保護団体のWWFジャパンとコラボしないかという話があり、「PANDA BLACK PROJECT」に参加したんです。それと同時に、自社で染め替えを行う「REWAREプロジェクト」をスタートしました。
ーーそんなきっかけがあったんですね。では、染め替えの魅力ってなんでしょう。
服はこのように、汚れてしまったり色あせてしまったりしますよね。そうしたお気に入りの服を黒く染め直すことで、新鮮な印象になり、新たなデザインの服として着ることができます。黒染めの加工によって、生地がはっ水になるのも魅力です。
ーー染めることで新たな洋服に出会えるなんてワクワクします!
黒染めであることも、私たちの強みになっています。たとえば黄色だと、いろんな黄色のイメージがありますが、黒のイメージって一つしかないですよね。それも、黒染めの良さだと思います。
古くから日本には陰影の文化があります。墨色、からすの濡れ羽色など、黒の名前もたくさんある。一方、英語はBLACKだけです。日本人には黒に対する独特の感性があるのではないでしょうか。
愛着のある服が黒く染まって新品同様に。
ーー工房で染め替えの工程を見学させてもらって、真っ黒に染まった服たちがずらりと並んで圧巻でした!
ジャケットとかGパンとか、Tシャツとか、いろいろあるでしょ。バッグとかキャップとか面白いですよね。汗染みや日焼けなども黒に染まってきれいになります。
ーーこのパンツは、ステッチの白が残って網目のような模様になっていますね。
元々白いパンツに使われていた白の縫製糸が染まらずに残っているんだと思います。お客さまも届いたらびっくりしはるやろね(笑)。
赤いコートは下地が赤なので赤みがかった黒に染まりますし、このワンピースは綿の部分が黒、化繊の部分がグレーの2トーンになっている。頼んだ方はこんなふうになるなんて想像もしなかったと思いますよ。そんな驚きも楽しみの一つとして、オーダーしてくださるお客さまが多いです。
ーー染め替えをされたお客さまから、どんなお声が届いていますか?
ある方は形見のコートを送ってくださって「コートとともに思い出もよみがえりました」と喜んでおられました。底部分に汚れや黄ばみが目立つトートバッグを染めた方からは「汚れが見えなくなり、白く染め残ったステッチも気に入りました」という声をいただきました。
みなさま、ほとんどがリピーターです。毎日、日本全国からいろいろな服が届きます。染め替えをしてでも長く着たいと思っている服ですから、お客さまの愛着が伝わりますよね。
ーー海外から送ってくださるお客さまもいらっしゃるのでしょうか。
ネット版ニューヨークタイムズで紹介されたことから、ニューヨークから送ってくださる方がいます。とても気に入ってくださって、毎回4、5点送ってくださいます。外国には「染め替え」という概念がないから面白いと思ってくださるようです。
「服を染めて大切に着る」を世界の常識にしたい
ーーフェリシモとのコラボレーションも始まっていますね。
ーーはい、これからはますますSDGsやサスティナブルの視点が必要になります。今の若い人たちには、古いものを大切に着た方がかっこいいという発想もあります。服を染め替えて大切に着る、ということは時代の流れに合っているなと思います。
ーー最後に、荒川さんの夢を教えていただけますか?
服をクリーニング店に持っていって「洗う」か「染める」を選択する。そんな世の中になるといいなと思います。それくらい「染め替え」を世の中に浸透させたいですね。
ーー染め替えによって、タンスで眠っていた服の出番も増えそうですね
着なくなった服を染めてもう一度着るというのは、世界的に見ても珍しい取り組みですし、黒染めは日本の伝統産業でもあるので、伝統を守るためにも染め替えを世界の文化、常識にしたい。世の中の当たり前にしたいですね。
🕺 応援したい気持ちをコメント